2012年1月18日水曜日

一瞬の出来事





私の住むこの地域は、青い空に太陽が照りつけるかと思えば、急に大粒の雨が降り出して、バケツをひっくり返したような状態になる気候柄である。


そして、一旦大雨に見舞われると、町中が水浸しになり、至る所で洪水が巻き起こってしまう。


洪水なんて、普通の人に言ってもピンとこないと思うけど、道が水で溢れ、ふくらはぎ、膝丈くらいは簡単になり、至る所で支障が起きる。


当然、車を運転している我々にも試練が与えられる。突如水嵩が増えた道路を、突進して行かなければならないのだが、それが予期せぬところから急に起こるものだから、ハンドルは切りにくくなり、フィルターやら何やら、警告マークとして作られているもの全てが点滅し初め、終いには、白いスモークが車内を煙らせる。そんな中、道の脇(時として真ん中)を、動かなくなって立ち往生している車が道を塞ぐという始末。


これが日本だったら、”行政は何をやってるんだ?”ということで、すぐに水はけを良くする為の工事が行われそうだけど、残念ながら、今私が住んでいるのは、そんなインフラの整った母国とは遠く離れた国である。


雨が降る度に、道は水で溢れ、道のすぐ脇に住む家の人の家は浸水し、交通は麻痺し、要するに進歩もへったくれもないのである。


それでも、私は今までラッキーであった。毎回泥水の中を、”ルイス(車の名前)、頑張れ!”と励ましながら、なんとか乗り切り、家に辿り着く1本道が溢れ返っていれば、手前で曲がって、近くの、通常は広場として使われている空間を無理矢理突き抜けて、家まで辿り着いていた。


が、そんな幸運も尽きる時がついにきた。


いつものように、土曜の朝早く、日本語のクラスに出かけ、用事を済ませて帰ろうとしたところで、突如大雨が降り出したことには気付いていたが、その日、私は連日の疲れで、一刻も早く家に帰りたかったのである。


横殴りの雨の降りしきる中、いつも水嵩の増す大通りを走っていると、案の定、ある地点からハンドルが切りにくくなり、いつもに増して水嵩が多いことには気付いたが、それでも引き返すことなく、前進し続けた。


通りにはいつも通り、何台もの車が立ち往生し、それを横目になんとか集落の入り口まで辿り着いたところまでは良かった。


が、その後、自宅へ帰る魔の一本道を入ったところで、事態は急変した。


午前中、室内にいたせいで気付かなかったけど、降雨量はかなりのものだったのである。
前進しようとすれども、思うように進まず、まずいなと往生するうちに、はっと気がつくと、車内に、泥水がすごい勢いで浸水してくるではないか。


もうこうなると、あとには引き戻せない。必死に前進しようと頑張ってアクセルを踏んでいたのだが、最後の曲がり角のところでハンドルがうまく切れずに大きな岩に乗り入れてしまい、ガガガ、と大きな音を立て、車は遂に、うんとも寸とも言わなくなってしまった。


私はそれでも必死にエンジンをかけ直そうとするのだが、それは無駄な抵抗というものであった。
水圧が、膝丈を超えたところで、私は後ろに積んでいた教材道具を瞬間的にたぐり寄せると、バンザイ状態で持ち、外に出ようとするのだが、今度は水圧でドアが開かない。


こういう時、人の火事場の馬鹿力とはすごいものだと思う。


私は荷物を頭上に持ったまま、渾身の力を込めてドアを蹴り開けて外に出て、胸元まである水位の中を、何度も転けそうになりながら、ザブザブと家まで辿り着いた。




(続く)























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