2011年2月26日土曜日

偏見







ハイディ・クルムという有名モデルが撮影で来ているというので、見学しにいった。 
正確に言えば、うちの機材を貸し出していたので、その回収を兼ねて、という名目上だったのだが。 

もう3年も撮影現場に出入りしているので、ローカルスタッフとして働く顔ぶれはだいたい知っているし、皆仲間うちなので、会えば、”あら、元気?”くらいは言う。 

またクライアントにしても、ローカルスタッフの力なしにはここでの撮影はあり得ない訳なので、我々の力を、否が応でも借りる事になる。 

という訳で、早朝の現場に入って相棒がケータリング用のコーヒーを貰い、私もそれに便乗して、そこにいた女性に、”これ、一つ貰ってもいい?”と念のため、丁重にお断りしたのである。 

が、その丁重さが逆にいけなかったようで、その彼女の対応は、”これ、スタッフ用なんだけど、あなたスタッフなの?”という、非常に威嚇的な物言いだった。 

私は苦笑いして、”うん、まぁね。”といってその場を立ち去った。 

撮影に携わるスタッフには意地悪な人やら毎回感じの悪い人が一人や二人は必ずいるもので、彼女も、私のことを知らない、ケータリングのアシスタントだろうくらいに軽く流したのである。(そして彼女は、ケータリングではなく、クライアントのスタッフの一人であった。) 

その後、再び撮影現場に戻り、そのハイディなんたらが、カメラに向かって色々なポーズを取っているのをモニターの後ろから眺めていると、クライアント用に設営されたテントから女性が出てきたかと思うと、私の方にやってきて、”ごめんなさい。あなた、英語喋れる?”ととっても優しく聞いてきた。 

思わず、何か手助けでも必要なのかと思い、反射的に”ええ、喋れるわよ。何か?”と聞くと、彼女はとても丁重に、”あの、ここ、撮影してるから、出来れば移動して頂けないかしら?”という。 

一瞬、おかしいな、撮影は向こうの桟橋でやっていて、モニターには映らないはずなのに、と思いながらも、彼女の言い方があまりにも謙虚だったので、”あ、わかったわ。”といって、ヘアメイクがスタンバイする木の陰に移ったのだ。 

ところが、そこで私がヘアメイクのとなりに腰掛けているのを、またしてもテントの中から先ほどの女性2人が出てきて、今度は完璧にこちらに向かってガンを飛ばしているのである。 

そこで、あっと気がついた。 

綺麗な撮影現場に、見かけない中国系がいたのが、彼らの目に触ったのである。 

本当に不思議な話しで、私の相棒や、その仲間内である機材会社の白人が、全く同じ事をして、現場を右往左往していたことは、全く問題ではなかったのに、一緒についてきて、同じく他のスタッフと話していた、関係者もしくは、関係者の知り合いらしき私は、なぜだかその場にふさわしくないと判断されてしまったらしい。 

特にケータリングのところにいた女性は、私のことがひどく気に障るようで、すっかり憤慨した様子でいる。 

思わず、説明しに行こうかな・・とも思いつつ、感情的になった女性に、同性である私が行ったところで、益々状況が酷くなるだけだと思い、何しろその場を立ち去ることにした。(が今思えば、がしがしいって、”私、関係者なんだけど!”くらい強く言えば良かったけど、なんだか気が引けた。そう、躊躇してしまったのである!) 

そして、セットを離れた後、なんだか無性にやるせなくなって、自分に何が起こったか、何がなされるべきだったかを冷静に考えようとした。 

とその時、道路際で相棒が、丁度荷詰めをしているところに出くわしたので、一言、”私、もう帰るわ。”と告げると、”え?もう帰るの??どうして?”と聞く。 

仕方ないので、簡単に状況を告げると、もちろんそういうことの大嫌いな彼は、”何を言ってるんだ!ここは僕たちの地元なんだぞ。一緒に戻って何食わぬ顔でいればいいんだ。さぁ、戻ろう。”とぐいぐい私の手を引っ張る。 

そして、先ほど注意された場所と全く同じ場所に立って、そこにいた、別の仕事仲間と与太話を始めたので、こっちは居心地が悪いこと、ほかならなかった。 

結局、白人である限り、彼らは私の気持ちはわからないだろうし、いちいちそんなこと気にする自分も嫌なのである。 

そこで、またしてもその場を立ち去って、先ほどと同じ木陰にメキシコ人メーキャップの女性と並んで腰掛けていたら、すっかり感傷的になった相棒がまたしてもやってきて、”こんなところにいないで、前でみたらいいよ。”というので、”悪いけど、放っておいて。”と話していたら、丁度その時、例の女性が通りかかったかと思うと、彼はすたすたと彼女のところへ行き、”ハロー!まだ挨拶してなかったよね。僕は、今あそこで君たちが使っている、あの機材とあの機材を提供している会社なんだ。あと、あのローカルスタッフ達もね。ところで、あそこに座っているのは僕の妻。10時に撮影が終わるって聞いて待機してるんだけど、いいかな?”といってのけた。 

そしてその始終、彼女の、”あ、そう。あ、そう。あ、オッケー。”とものすごくばつの悪そうな、それでいてとても機械的な答え方を彼に返しているのが、風に乗って聞こえきた。 

ただ、それだけの話しなんだけど。 

今住んでいるところは、母国でもアジア圏でもないから、たまにこういう偏見にあうし、私もなるべく多めにみることにしている。(中国人と日本人の違いがわからないと言われても、それって、ここではある意味、仕方がないことと思っている。私たち日本人が、ベネズエラ人とコロンビア人の違いが分からないのと一緒だ。) 

けれど、白人系の人にこういう風に扱われると、どうしてこうも感に触るんだろう。そして、なんでもっと早めにびしっと言えなかったんだろう?という自己嫌悪で気持ちはブルーになる。 
しかしこの胸のざわめき、不快感・・これって、血の成せるわざ何なんでしょうかね〜? 

まぁ、こういうのって慣れだろうから、何度か同じような経験を重ねて、反射的に言い返せるようになるんだろうけれど。 

しかしそれにしても、この撮影現場独特の雰囲気、なんていうの?ピリピリしたヒステリックかつ暴力的な雰囲気が私は昔っからあまり好きではないんですね。 

同じ白人系でも、その昔農村体験したウーファー系や、ヨガ系は、もっと取っ付きやすいし、少なくとも我々を迫害したりしなかったけどな。 

食べ物とかも、多いに関係しているでしょう。 

それとともに、視野を広げたくて遠くまでやってきて、だんだん同じ髪の色、同じ色の目、同じ宗教ルーツを持ったアジア人が、言い訳抜きでやっぱり一番好き、と思ってしまうのは、いいことなのかどうなんでしょう? 

以上、やけに居心地の悪い思いをした、ある朝の出来事でした。

2 件のコメント:

  1. お久しぶり。
    ・・・と、思ったら、なかなかむかつく話ね。
    周りにいた人と人種が違ってただけで、この人はこの場にいるべき人間じゃない、と判断した彼女たちはただのレイシスト。
    kyokoちゃん!
    日本人の奥ゆかしさや良識ある態度はこの際置いといて、
    貴女は英語も流暢なんだから、
    がつん!と言ってやって下さい!
    直接そんな嫌なめにあったのだったら、
    こういう人種には"お門違いだということを分からせる"
    ことが大切だわ。
    腹立つなぁ、この女の人たち。
    居心地が悪い思いをしなければいけないのは、
    彼女たちであって、kyokoちゃんではないです。
    その女の人の言動で居心地が悪くなるなんてダメ。
    相手の思う壺よ。
    (彼女たちの言動の目的はkyokoちゃんが居心地が悪くなって
    どこかに行くことなんだから!)
    それに、こういう場合はある意味、戦わないと、
    なんかモンモンして、結局「だから白人は…」って
    こちらも同じような偏見持ち始めるかもよ。

    「私、クマのワイフですが、何か?」
    みたいに堂々としてればいいのよっ。
    あーーー、腹立つクライアントやね

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  2. さささん:

    友人曰く、やっぱり、ここ中南米ではそれだけ我々は異質(=不快)に見えるんだろうねということでした。

    ちなみにケータリングはクマ先生と取りに行ったので、(一足早く彼は立ち去ったのだけど)私が関係者であることはわかっていたはずなんだけどね。

    ま、こういう意地悪な人はどこにでもいるものです。

    彼に、言われて彼女達も居心地の悪い思いをしたことでしょう。

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